2016年04月30日

軍事郵便の通称号研究書

Apr28&02.jpg太平洋戦争中の陸軍軍事郵便を解析するためには、発信用のアドレス表示として使われた兵団文字符と通称番号の知識が欠かせません。郵便史研究家の故裏田稔氏は1990年代、「軍事郵便にみる兵団文字符と通称号」のタイトルで軍事史研究者の団体「史実研究会」会報に軍事郵便エンタイアの実例を示して研究記事を連載していました。

ここで「兵団文字符」とは、太平洋戦争期、旅団以上の規模の部隊に付与された漢字1文字(末期には2文字も)の符号です。第16軍=「治」、第2師団=「勇」のように使われました。

一方、「通称番号」は独立小隊以上の全部隊ごとに付与された4桁(後期には5桁も)の番号です。正式な建制部隊名に代えて南方軍総司令部=「第1601部隊」、飛行第61戦隊=「第9604部隊」のように使われました。いずれも軍事行動の秘匿のためです。

実際の軍事郵便では、兵団文字符と通称番号を組み合わせた「部隊通称号」の上に、さらに「派遣方面名」を冠記して使いました。例えば「ジャワ派遣勇第9604部隊」で初めて完全な軍事郵便の発信アドレスとなります。この派遣方面ごとに交換局が、例えば「ジャワ派遣」なら門司局といった具合に決まっていました。

裏田氏のこの連載記事は一部の軍事郵便コレクターや協力者に配られ、「知る人ぞ知る」存在でした。しかし、裏田氏が亡くなられた後、業績は埋もれかかっていました。最近になって秋田市のコレクター浅野周夫氏がご遺族の了解を得て編集・復刻し、関係資料も加えて出版されました。

本書には1ページ1点の形式で、陸軍関係約300点、海軍区別符関係約100点のエンタイアが陸軍史(戦史、部隊編制)研究者大内那翁逸氏の協力も得て解説されています。付録として、終戦時の師団・旅団一覧、歩兵連隊の番号順一覧、基幹歩兵連隊史などの資料もあって検索に便利です。

この本さえあれば直ちにすべての軍事郵便の「素性」が分かる、というものではありません。しかし、ここで採られている裏田氏の解析の手法を応用すれば、個々の軍事郵便の調査をいっそう深めることができるでしょう。軍事郵便で使われた通称号が書物になるのは初めてのことです。多年のご苦労の末、刊行にこぎ着けられた浅野氏のご努力に敬意を表します。

『日中戦争・太平洋戦争期における実例による軍事郵便解析の手引き』
裏田稔・大内那翁逸共著、浅野周夫編集、自費出版(2016年4月)、A4判454ページ、4,500円
裏田氏は初期の『消印とエンタイヤ』誌などを舞台に、中牛馬、機械印、軍事郵便など多方面で活躍した高名な郵便史研究家(1931-2002年)。大内氏は大著『旧帝国陸軍編制便覧』の共同執筆・編集者。(浅野氏の連絡先は秋田市八橋イサノ2-3-22)
posted by GANさん at 23:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 論文・文献 | 更新情報をチェックする