2018年03月24日

2.26事件の通信取締り

帝都の変.jpg1936年(昭和11)に東京で起きた青年将校らによるクーデター未遂の「2.26事件」で逓信当局による通信取締関連の電報群を直近のヤフオクで入手しました。

福岡県底井野局が2月26日の事件発生直後からの4日間に受信した熊本逓信局監督課からの局長親展局報・官報の9本です。事件の状況や関連した「不穏行動」を伝える電報と郵便の停止、事件を報道した地元新聞の差押えなどが指示されています。逓信本省からの指令に基づいて管内の九州全局に同文が打電されたと思われます。

第1報は2月26日午後7時3分受信の局報で、関連電報をすべて差し止めるよう、次のように指示しています(原文は略号を含む全文片仮名)。
「本日東京市其ノ他ニ於ケル軍隊ノ不穏行動並ビニ之ニ関スル事項ヲ記載シタル内外、日満電報ハ停止スベシ」

午後8時15分受信の第3報では「局報ノ件ハ自今総テ送達方経伺アレ。暗号ニシテ事件ニ関スル事項ヲ記載シタル疑ヒアルモノハ受付ノ際訳文ヲ提出セシメ之ヲ付記シ経伺アレ」と、差し止め電報の処理方法が指示されました。「経伺アレ」とは、電文を逓信局に知らせて指示を仰ぎ、許可を得て送達せよ、との意味です。

これらの指示は2月27日午前2時23分受信の第7報で「政府ヨリ発表セル範囲ニ属スルモノニ限リ自今送達方経伺ヲ要セズ」と緩和されました。国民の不安や動揺を鎮めるため、政府発表の範囲という最低限の官製情報を与えて流言蜚語を抑える政策から出たのでしょう。第2次大戦中の「大本営発表」を思い起こさせます。

2月27日午後7時45分受信の第8報(上図)で、電報に加え郵便の取締が初めて指示されました。
「今回ノ帝都ノ変ニ関シ其ノ筋ニ於イテ公表セラレタル以外ノ事項ヲ記載シ其ノ他不穏ノ内容ヲ有スル郵便物ハ厳ニ取締ノ上該当ノモノ発見ノ場合ハ内国郵便物ハ郵務局業務課長、外国郵便物ハ外国郵便課長宛テ特別親展ト表示シ直接送付アレ」

「郵務局」は東京の逓信省にしかありません。「不穏郵便物」を発見したら、その現物を熊本逓信局を経由せず本省に直送せよという指示です。はがきはともかくとしても書状ならなおさら、封筒内部の通信文を調べなければ「不穏」に該当するかどうかは分かりません。これは事実上の郵便検閲・差押え指令です。

「戒厳令ニ依リ開緘」印で知られる郵便物の憲兵検閲が許されたのは、戒厳令施行地の東京に限られます。一連の電報指示が熊本逓信局管内だけだったとは到底考えられず、全国規模で実施されたのでしょう。明治憲法下でも保証されていた信書の秘密を侵す重大な違反行為でした。1941年(昭和16)の臨時郵便取締令以前にも密かな通信検閲が行われていたことを証す初めての1次資料です。
posted by GANさん at 12:22| Comment(0) | 郵便検閲 | 更新情報をチェックする
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