

左の田沢1銭切手に押されているのがそのニセ印、右はGAN所蔵の真正印です。この野戦局の軍事郵便自体は駄物で、よほどきれいな消印でない限り500円でも売れないでしょう。しかし、切手に押されているとなると、とたんに「大」の付く珍品に昇格します。
第2野戦局の所在地はニコリスク・ウッスリスキーですが、この局の有料エンタイアはもちろん、オンピースでも単片でも切手上の印影は未発表です。GANの調査では第2野戦局が普通(有料)郵便を扱った事実はなく、切手上にこの印影があること自体がそもそもおかしいのです。が、それはまあ、一応おいておきます。
印影だけ比べて、ニセモノである証拠は片手ぶん以上を挙げることが出来ますが、ここでは2点だけ指摘しておきましょう。偽印(左)と真印(右)を見比べて分かる違いは、まず第1に、偽印の日付表示が「後点式」であることです。後点とは、年、月活字の後に点(ピリオド)が付く形式を指します。
櫛型印は一般にすべて月、日活字の前に点が付く「前点式」です。正規の後点式櫛型印がないこともないのですが、大正初期の機械印(林式初期印と平川式元祖印)だけと、非常に局限されています。日本の消印について無知なシロートが作ると、このような作品になるという典型例です。
第2の違いは「野戰局」の「戰」の偏に当たる「單」の字体です。旧字体としては「口」を二つ並べた偽印の方が正しいのですが、真印は「日」を横にしたように略しています。活字母型の彫刻を単純化したかったためでしょう。偽作者は真印をよく見ていないため、正しい字体で作ったのに結果的に間違う、という「痛恨の」ミスを犯してしまいました。
この2点はニセモノの証拠として致命的です。しかし、ハンコとしての偽造技術は、中国・上海あたりで作られたものらしく、なかなかのものです。真印と比べて初めて分かるような違いなので、下値さえ安かったら、うっかりだまされるコレクターも出たでしょう。切手を集めるにもハンコを集めるにも、郵便史的な知識が必要な所以だと思います。