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角型印は中文で「禦侮救国/誓復失地」とあります。「侮りを防いで国を救え/失地回復を固く誓おう」という意味でしょう。当時の抗日スローガンの一種です。回復すべき「失地」とは、日本軍が満州事変を起こして奪い取った東北部、つまり当時の「満州国」を指します。
台湾の何輝慶氏「九・一八事変と抗日宣伝印」(『郵趣』1993年6月号所載)によると、このスローガン印(抗日宣伝印)は、中国郵政当局が32年9月18日の満州事変1周年を期して全国の郵局に指示し押させたものです。この封筒に押した引受局の慈谿局では5年以上にもわたって使い続けていたことになります。
スローガン印はこれ以外にも多種多様なものが知られています。「領土を奪われた恥を忘れるな!」「日本の侵略に抵抗しよう!」。郵政当局者の主体的な意志で、郵便逓送とは無関係に、郵便物の流通を利用して国民に呼び掛ける目的で押したものです。当時の中国人の痛烈な抗日意識を物語る歴史資料といえるでしょう。
慈谿は上海攻略戦で知られる杭州湾の南岸で、寧波の北西の小さな町のようです。日本軍は1941年春に中国沿岸封鎖作戦を開始し、主要港湾都市を占領して国民政府側の機関や設備を破壊しました。寧波と周辺は41年4月20日ごろ封鎖作戦の一部の「浙東作戦」により占領されています。慈谿局のスローガン印がさらに続いていたとしても、もはや使えなくなったでしょう。