
右図は北海道の古書店が入手したという「乃木書翰」です。共同通信が「乃木希典の直筆手紙発見」とさも大ニュースのような記事にして配信し、2012年1月14日付日本経済新聞などに掲載されました。子息の戦死や後継者に関する、素人受けぴったりの「極めて興味深い」内容だそうですが、そちらは置いておきます。
封筒は菊10銭切手を貼って書留扱いとなっています。小さな荒れた写真しかないので引受印の局名などは不明です。将軍が自宅から出した真正の書翰はすべて赤坂局引受になっています。それなのにこの封筒の書留ラベルが「小石川」なのはおかしい。引受印の局名がもし「赤坂」ならニセは決定的です。

局名は「赤坂」とも「広島」とも読めそうな不鮮明さですが、日付活字の「43.7.8」だけはどうにか分かります。ところが、これが箸にも棒にもかからないフォントを使ったゴム製の不出来な偽造印なのです。
赤坂局にせよ広島局にせよ、櫛型印の時刻活字は数字の直前にピリオドを配置する「前点式」のはずですが、「8」の日活字の直前にピリオドはなく、月活字「7」との中間というあいまいな位置にあります。「7」の前のピリオドも同様です。数字活字に付属して一体となっているのではなく、異様に大きな「ピリオド活字」として独立していることが明らかです。
かくして、消印がニセモノ。→もし書翰がホンモノだったらニセ消印をわざわざ作ってニセ封筒まで添える必要はない。→故に、書翰もニセモノ、という三段論法でアウトになります。余計な封筒を偽造しなかったらこの書状はあいまいなまま通っていたかも知れません。「雉も鳴かずば撃たれまいに」の類いの話です。

こちらの封筒では表面の菊3銭切手が赤坂局の日付印で引き受けられています。着印がないところが不自然です。ところで、この極めて明瞭な引受印がまったくいけません。
下に示すように、外郭リングが異常に太かったり、「赤坂」の局名活字に「太教科書体」という実在しない異様なフォントが使われているのが、まずダメです。C欄時間帯の「后0-8」はあり得ない刻みで、これは偽造印の証拠として致命的です。

従ってこちらも、消印がニセモノ→封筒が偽造→故に書翰本体もニセモノ、という理屈を累積する結果となりました。もっとも、出品者は商品説明の中で「当方では肉筆の保証できますが、真筆の保証は致しかねます。」とわざわざ断っています。
これを「多少の良心はある」と解すべきなのか、あるいは偽造を承知の巧妙な逃げ口上か。いずれにせよ、2通の書翰は「乃木人気」が世紀を超えてなお盛んな証拠、とは言えそうです。
宜しければ教えて頂きたく思います。すみませんが宜しくお願いします。
20年3月2日(月)22:00締め切りのこのアイテムは、出品当初から注視していました。ご指摘の通り、全くのニセモノです。GANが17年1月30日のブログで取り上げたものと筆跡も宛先も同じなので、同一犯(!)の仕業と思います。書翰の内容はもっともなので、封筒だけがニセモノかとも思いました。しかし、署名「希典」の書き方が同じなので、書翰も偽作だと思います。
封筒をニセモノとする根拠は、郵便史的には次の4点が指摘できます。
1、貼られている切手(3銭+15銭=18銭)の郵便料金が合わない。もし3倍重量(4匁×3=12匁=45g)なら書状料金9銭に書留料7銭を加えた16銭が正当ですが、2銭オーバーです。4倍重量とすると19銭が必要で、今度は1銭足りません。
2、到着したはずの広島局の消印(必須)がありません。
3、切手に押された赤坂局の消印の「前5-0」という時間帯は東京市内局としてあり得ない時間キザミです。もし「正午まで」を表したいなら「-后0」とするのが決まりでした。
4、宛名の「殿」の直下に貼られている書留ラベルが異常です。他の封筒から剥がしたラベルの上と左右の余白を切り取ってこの偽造品に貼ったのでしょう。斜め貼りも極めて不自然です。