今のGANよりもまだ若かった父の「荷物持ち」として、立山と後立山に2度同行しました。「あの急な岩尾根が源次郎」「カニの横ばいがよく見えるぞ」「大きく切れてるのが三ノ窓。隣が小窓だな」。兵役時代の重い「ガンキョウ(双眼鏡)」を持っていて、飽かず眺めていた姿が思い出されます。
今回は、後期高齢者もいいとこの2人パーティーなので、健常者の2倍の時間を見込んで行程を組みました。初日は立山黒部アルペンルート出発点の扇沢手前で高級ホテル泊まりです。新宿発中央線の夜行最終列車で通路に新聞紙を敷いて寝た学生時代の山行の対極。兄が「宿泊費は全部オレが持つ」とこの年して兄貴風を吹かせるので、乗らない手はないのです。

ガイドブックの3倍、3時間もかかりましたが、いずれにせよ想定内です。ここまで登ればあとは稜線散歩のはず。大汝山(3,015m)、富士ノ折立(2,998m)、真砂岳(2,861m)、別山(2,874m)と、山荘で渡された弁当を開ける気力もなくへたり歩きました。縦走路上の別山から少しはずれて双耳峰をなす別山北峰(2,880m)にたどり着いた時は既に午後1時を回っていました。
別山北峰からは眼下の剱沢大雪渓を隔てて剱岳がフルオープンで真正面に迫ります。環境省にはナイショなのですが、実は剱と向き合う特徴的に平たい花崗岩の根元に父の分骨を埋納していました。前回は1988年だったので、気がかりにしていたお参りを30年ぶりに果たしたことになります。水筒の水で岩を清め、故人が好きだった銀座清月堂の金鍔と水羊羹を供えて二人で手を合わせました。
一ノ越から奇跡的にクッキリ見えた槍・穂高や笠ヶ岳の遠望、別山北峰で雲の切れ間から一瞬のぞけた剱岳源次郎尾根、そして雪渓を残して神秘な緑青色を湛えた室堂平のミクリガ池が印象に残ります。雷鳥にも両三度お目にかかれました。この山域を今後も再訪できるとは思えません。よい山行ができたことを、つくづく感謝しています。
(本稿タイトルは「剱岳ノ険ヲ看ルハ別山北峰ニ於ケルニ如カズ」とお読み下さい。インチキ漢文です。)