2020年03月26日

国際軍事郵便なぜ無料?

Egypt-1.jpgEgypt-2.jpg最近のヤフオクで入手した、日中戦争期に華中に派遣された部隊からエジプトに宛てた軍事郵便です。戦地から中国や「満州国」に宛てた軍事郵便はありふれていますが、第3国宛てはあまり目にしません。

この封書は中支派遣田村部隊から4月18日に発信され、三井物産アレクサンドリア支店の日本人に宛てられています。裏面にアレクサンドリア局の到着印が明瞭に押されていて、1940年6月13日に着いたことが分かります。恐らく門司局を経由し、西回り船便で2ヵ月がかりで逓送されたのでしょう。

封筒表面下部の機械印は中継印と思われますが、残念ながら読めません。スエズ、ポートサイド、カイロなどエジプト局の可能性もあります。その右の二重丸印は英語CENSUREDが読め、アラビア語もあるバイリンガル検閲印です。ナチスドイツがヨーロッパを席巻していた時代の雰囲気が感じられます。

ところで、国際郵便を軍事郵便で、しかも無料で出せたものでしょうか。規則に照らせば答えは「否」です。軍事郵便の根本法令である明治37年勅令第19号第6条は「条約ニ依リテ取扱フ郵便物ニハ料金免除ヲ適用セス」との趣旨を規定しています。「条約」はUPU条約などを想定しているでしょう。

この規定によれば、野戦局に差し出された国際郵便でも、UPU料金(この封書には20銭)の切手が貼られていれば有効です。その場合は軍事郵便でなく普通郵便として、軍事郵便交換局と外国郵便交換局を経て逓送されました。実際、20銭や10銭切手が貼られて野戦局で引き受けたアメリカやドイツ宛て書状・はがき数点が知られています。

それではこの「軍事郵便」が無料で引き受けられたのはなぜでしょうか。野戦局員が法令に無知だったとしか言う他ありません。通信文から、発信者は外国語が堪能なため特別に召集された士官(あるいは徴用された軍属)のようです。そういう人が出すのだから問題あるまいと、野戦局員も誤認してしまったのかも知れません。

日露戦争期には高級軍人や観戦武官らの野戦局引受有料国際便カバーがかなり発表されています。しかし、日中戦争期の国際郵便は極めて稀です。時代が下るに連れて軍人の「視野」が狭窄していった、などと考えるのは穿ち過ぎでしょうか。いずれにせよ無料国際軍事郵便は(違則だったとしても)ユニークで、資料として貴重です。

エジプト検閲3.jpg追記】(2021.02.20) このカバーに押されている二重丸検閲印の鮮明な印影(右図)を入手しました。同時期の同じアレクサンドリア宛て郵便物に押されているので、アレクサンドリア局の検閲印でしょう。なお、本文中で英文文字を「CENSURED」としましたが、これは誤りでした。正しくは「CENSORSHIP DEPT.」で、「検閲局」の意味と思われます。
posted by GANさん at 18:37| Comment(0) | 軍事郵便(陸軍) | 更新情報をチェックする
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