2020年09月14日

戦争を経済的に総括する

収支報告.jpgこの夏、『太平洋戦争の収支決算報告』(右図=青山誠著、彩図社、\1,300)という本が出版されました。新聞広告で知って一も二もなく購入しましたが、全くの期待外れでした。

タイトルに「収支」とありますが、「支出」に当たる経費・損害ばかりが書かれ、「収入」に関する論及がありません。当然の結果として差引決算など出来るはずもない。「羊の頭を見せて狗(いぬ)の肉を売る」の類いの商法です。このような題名を付けた著者・出版社は恥を知り天下に謝すべきです。

明治以来の近代日本が何度となく繰り返した戦争が「割に合う」ものだったかどうかは、台湾、朝鮮など植民地経営の「損得勘定」と合わせて昔からGANの関心を強く引くところでした。倫理や政治からでは定量的な分析は出来ません。しかし、経済学や会計学の方法の「戦争事業」「植民地経営」への適用は可能だと思うのです。

日中・太平洋戦争の軍事費に関する報告は既に大蔵省が国家財政の立場から出しています。しかし、戦後4半世紀を経てほぼ確定しかけている史実を踏まえて経済視座からの総合的な戦争分析はまだ見ないように思います。歴史学と経済学との協同作業が必要でしょう。結論は不明ですが、「収支相償わない」ように予想します。

元に戻って、この本は戦費、人命と財産上の損害、喪失した植民地・占領地の価値、戦後賠償の4点を中心に書かれています。いずれも「こういうこともある」と示す程度で、新たなデータを発掘してきたわけではなく、著者独自の視点や分析も見当たりません。ほとんどが既刊の2次資料の引用です。

良いところを強いて挙げれば、分かりやすい言葉で書かれていることでしょうか。予想に反して難しい会計用語や財政・金融論などはまったく出てきません。スラスラと読み進められるのですが、逆に言うと、心に引っかからない、頭に残らないということでもあります。経済的分析能力や歴史観の問題かと思われます。

本書とやや近い発想の関連書として、既に『臨時軍事費特別会計』(鈴木晟著、講談社、\2,000)が出ています。力作です。関心のある方にGANはこちらをお奨めします。

posted by GANさん at 12:20| Comment(0) | 文献・論文 | 更新情報をチェックする
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