2020年12月16日

フロレス島現地印刷葉書

フロレス葉書2.jpg南方占領地切手の珍品・稀品といえば「フロレス暫定切手」が定番の一つですが、ひょんなことから手持ちの軍事郵便はがき(左図)がそのフロレス島の同じ印刷所製だったことが特定できました。

太平洋戦争中、南方に派遣された兵士が使った軍事郵便のステーショナリー(便箋、封筒、はがきなどの紙製文具)には日本内地製のもののほか、明らかに現地製らしいものを見かけます。GANは南方現地製はがきを料額印面部のデザインによって☆系、□系、ゼロ系(☆も□もない)の3系統に分類、整理しています。

先日、収友で旧蘭印地区占領切手専門家の増山三郎氏から「オランダの南方切手グループで青木好三氏の旧著を復刻する計画がある。青木本に載っているのと同じ軍事郵便はがきを持っていないか」と照会がありました。青木氏は既に故人ですが共通の収友で、やはり南方切手の専門家でした。

幸い増山氏の要望には応じることができ、その過程で思わぬ知見も得られました。青木氏の本とは、このブログの2017年11月10日の記事「バリックパパンの櫛型印」でもご紹介した『私録じゃがたら郵便/占領中の旧蘭印での郵便』です。青木氏はこの中でフロレス島暫定切手の製造状況を詳しく調べていました。

フロレス(フローレス)島とは、インドネシアのバリ島とチモール島の間にある小スンダ列島の1小島です。青木氏によると、島には戦前からカトリック教会付属のArnoldusアーノルド印刷所があり、ジャワ島より東では最大の規模でした。日本軍占領下で暫定切手を印刷したほか日本軍兵士用の軍事郵便はがきも印刷しました。

フロレス改.jpgその使用例が同書に掲載(右図)されていたのですが、これまでGANは見過ごしていました。青木氏はこのはがきの発信者で戦時中フロレス島に駐留した川端氏本人から「アーノルド印刷所で、そこにあった用紙を利用して軍事郵便葉書を印刷した」という話を聞き取っています。このはがきの発信アドレスの2行目にある「セ五六」がフロレス島の最大都市エンデを表しています。

今回の増山氏の件で私蔵の1点がまさにこのアーノルド印刷所製と知りました。旧蘭印地区では現地製の多彩な軍事郵便はがきが使われています。今後の調査によっては、さらに他の「アーノルドはがき」「フロレスはがき」を同定できるかも知れません。

冒頭で示した私蔵のはがきは薄紅色のやや厚手用紙に赤褐色で活版印刷されています。平仮名活字がないので「はがき」を漢字で代用しているのが特徴です。発信アドレスの「セ32 セ12」は南ボルネオ・バリックパパン所在の第102海軍燃料廠を表しています。小スンダ列島は海軍の担当地区だったので、このはがきに陸軍の使用例はないと思われます。

南方現地製軍事郵便はがきは蘭印地区に限らずマライ・スマトラ、ビルマ、フィリピンなどの各地でいくつもの系統が確認できています。物資不足の内地事情を勘案した日本軍の「現地自活」策の一つでしょう。当時の日本内地では製造されていない高品位な紙質、平仮名活字「はがき」の稚拙に見える異様なフォントが最大の見分けポイントです。

日本軍占領地区で操業できた印刷所の数は限られていたはずです。今回をヒントに、南方現地製軍事郵便はがきの製造所を調べる意欲が湧いてきました。きっかけを与えてくれた増山氏に感謝!です。
posted by GANさん at 21:26| Comment(0) | 南方戦区 | 更新情報をチェックする
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