2020年11月16日

縦ペア連刷の恤兵絵葉書

長大はがき-2.jpg連刷恤兵絵はがき.jpg右図は2枚のはがきを縦に置いたのではありません。これは縦長な1枚の裏表。陸軍恤兵部が太平洋戦争初期に発行した恤兵絵はがきの1種です。

恤兵部は満州事変の当初から太平洋戦争末期までの長期間に無数の恤兵絵はがきを発行しましたが、2枚続きの連刷はこれだけです。印刷所としては通常の裁断工程を1回ずつ飛ばして注意深くカットしなければならない上に、二つ折りという余計な工程も加わります。官公需とはいえ、「勘弁してくれ」と悲鳴をあげたことでしょう。

画題は「コタバル敵前上陸」で、猛烈な砲煙弾雨の中を匍匐して海岸に突進する兵士らが描かれています。作者は戦前の大衆雑誌で挿絵画家として活躍した鈴木御水。太平洋戦争開戦劈頭のマレー半島奇襲上陸作戦に題を取っています。

原画は超横長で、恐らくメートル単位の大作だったのでしょう。10センチそこらの絵はがきに収まるように縮小したら何が描かれているのかさえ分からなくなってしまいます。次善の策としてこの形が採用されたと思われます。

このような連刷絵はがきは当時同じような戦争画を多数回発行した陸軍美術協会の絵はがきにも複数回見られます。発行者の意図は美術品としての鑑賞用で、使用時に二つに切り離すことが想定されていました。実際、こういった絵はがきの使用例はほとんど全部が切り離されていて、つながったままで使われた「完全品」はまず見られません。

普通にある往復はがきの形式は2枚横並びの「横ペア」ですが、この恤兵絵はがきは「縦ペア」です。このようなはがきに郵便局はどう対処したでしょうか。郵便法令上の便宜的措置として第1種の封書並みに扱われました。これが有料郵便だったら当時のはがき料金2銭切手1枚だけではアウトですが、封書料金4銭が貼られていればOK、となったはずです。

一方、無料の軍事郵便では取扱種類が「第1種:書状、第2種:郵便葉書」などと厳しく制限されていました。「葉書状のものの縦ペア」は第2種と言えず、もちろん書状でもない。違反郵便物ですが、まさか第1種封書料金の2倍、8銭もの未納料金を受取人から徴収するのも忍び難い。未納印や付箋の形跡などは見当たらず、「便宜有効」とされたのでしょう。

ところで、この恤兵絵はがきの発信アドレス「第1642部隊」は中国・長江沿岸の九江陸軍病院を表します。病院勤務の衛生兵が今は内地に帰還している元従軍看護婦に宛てて発信したようです。病院内外の変化を1年ぶりの通信で綴ったため長文となりました。あるいはこの当時、はがきの発信だけが許され、封書は禁止されていたのかも知れません。
posted by GANさん at 22:39
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