2021年06月25日

「東芝ゼロ円」は無罪?

チラシ2.jpgヤフオクで商品説明に「参考品」「レプリカ」などと記しただけで済ますニセ切手がひところ我が物顔してはびこり、苦々しい限りでした。今年に入って警視庁保安課が1月、5月と立て続けに出品者を摘発したため、ようやく下火に向かいつつあるようです。

やれやれと思っていたら、関西の有力切手商A氏がこの事件についてブログで意外な「考察」を発表したのに仰天しました。それに誘われたように、つい最近、別の切手商B氏が「東芝ゼロ円模擬切手」を販売するチラシ(左図)をオークション会員に配りました。実はこれ、郵便切手類模造等取締法(以後「郵模法」)違反になりかねないヤバい話なのです。

警視庁が摘発した2事件がこの郵模法(クリックで条文表示)違反の容疑でした。郵便料金として使うための切手偽造は昔から郵便法第29条違反ですが、郵趣家目当てに古切手や「切手まがい」を模造・製造したり販売しても郵模法第1条違反に問われます。郵模法は郵便切手類の信用維持が主な目的で、違反者には最高1年の懲役や罰金刑(第2条)が科されます。

警視庁が5月14日に書類送検した2件目の事件では、横浜市の古物商(53)ら8人が「見返り美人」「ビードロを吹く娘」などのカラー印刷模造品や「旧郵政省が試し刷りした非売品の切手」をネットオークションで販売した疑い、と発表されました。この「試し刷り切手」とは「東芝ゼロ円模擬切手」のことでした。

1960年代中ごろから70年代初めにかけて、日立、東芝、NECなど大手電機メーカーは郵便物自動処理機の開発を競い合っていました。「東芝ゼロ円」はそこで使われた多くの実験用模擬切手の一種です。当時現行の「7円金魚」、「50円弥勒菩薩」の図案で、ホンモノと同じ大蔵省印刷局で66年ごろ製造されました。違いは額面「0」円と色検知バーなどです。

5月18日に更新したブログでA氏は「法的考察」をし、郵模法に抵触しない(違反にならない)ものとして次の具体例3点を挙げました。

 A、郵模法制定の1972年12月以前に製造されたもの(法令不遡及の原則による)
   例:菊切手の郵便目的用の偽物、手彫・旧小判の和田製の模造品・新昭和の輸出用の
     リプリント・切手経済社の月雁と見返りの摸刻
 B、郵政大臣(現・総務大臣)が認めた関連品
   例:全てのみほん切手・エッセイ・プルーフなど
 C、郵便切手でない印紙・シール・ラベル・証紙類
   例:村送り・坂東ラーゲル・印紙・証紙

A氏は「東芝ゼロ円」はこのA、B(あるいはCにも)に当たり、郵模法に抵触しないと考えているようです。この事件は「絶対に無罪だし、検事がストップを掛けて不起訴でしょう」と断定しました。しかし、GANに言わせればこれらは「トンデモ解釈」です。起訴、または略式起訴される可能性が非常に高い。少なくとも「嫌疑不十分」とはならないと思います。

法令不遡及という原則は確かにありますが、遡及しないのは製造、販売、使用などの「行為の時点」についてです。「法制定以前に製造された品」「大臣が認めた品」など「対象物」の全般的免責を指すのではありません。しかも、「東芝ゼロ円」は実験目的からして郵模法第1条第1項の「(郵便切手類に)紛らわしい外観を有する物」に作られています。たとえ東芝自身であっても、販売などしたら直ちに違法性を問われかねません。

ブログ記事が出た直後、全く知らない仲でもないA氏にGANは「法解釈が間違っていませんか」とメールで疑問を呈し、2、3のやり取りもしました。しかし、結果的にA氏には通じなかったようです。実際、B氏がこのような模擬切手販売チラシを配布するに至りました。残念なことです。
                   ☆
追記】(2021.07.12)関西の有力切手商A氏が7月9日に自身のブログを更新して「東芝ゼロ円」事件に関連し、再び郵模法の(新?)解釈を示しました。

「郵摸の法文は一条しかなく解釈に迷いません。紛らわしい外観を有する物を摘発の対象にし、適用外要件も明示しています。」というのです。これでA氏の「トンデモ解釈」の原因が分かりました。A氏は「犯罪構成要件」という概念をご存じなかったのです。刑法関係犯罪を構成する不可欠な要件は何かを決める「基本のキ」というべき考え方です。

郵模法第1条が規定する犯罪構成要件は次の3点となります。これを同時に満たさない限り、犯罪にはなりません。
 1、郵便切手類に紛らわしい外観を有する物であること(客体)
 2、総務大臣の許可を受けたものではないこと(客体)
 3、製造、輸入、販売、頒布、郵便使用すること(実行行為)

A氏はこのうち客体(対象物)だけ、しかもこの第2点目だけを強調して「無罪」説を主張しますが、根本的に「解釈に迷って」います。第1に「紛らわしい外観を有する物」というだけで摘発されるのではありません。第2に、許可されたのは東芝が製造することでした。今回の横浜の古物商による転売行為は二重に許可外で、ただちに第2点目に当たります。

あくまでもGANの素人判断ですが、第2点目の条文が平仮名で「もの」とされているのは、「者」にも「物」にも適用されるからではないでしょうか。古物商は主体として許可を受けていない者であり、客体としては許可を受けていない物を販売(実行行為)したと警察は判断していると見られます。

結局、この「東芝ゼロ円」事件は犯罪構成要件の上記3点を外形的には完全に満たし、摘発の対象となり得ます。個人的な意見の表明はもちろん自由ですが、A氏は「法的考察」以前に、共有すべき「法的常識」を学ぶべきでした。
posted by GANさん at 15:11
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